Chiang Rai Expats ClubというNPO団体がある。米国人、英国人を中心に60名ほどのメンバーがいる。チェンライに住む者同士友情、を深め、生活の質を向上させ、楽しい集まりを持ちましょう、という一種の社交クラブだ。毎月第一土曜日の10時から12時、チェンライ市内のホテルに集い、講演会が開かれる。
AUAで10時から1時間、タイ語の個人授業を受けている。自分の前、つまり9時から10時までピーターとサンディという60代の米国人夫婦が習っている。同じ生徒仲間だから、元気?とか、授業楽しんでね、といった会話を交わすようになった。彼らはエキスパッツ・クラブのメンバーで、いつもクラブの講演会に誘ってくれる。時にはメールで会合のお誘いが来る。実は土曜はいつも予定が決まっている。8時から10時までテニス、11時半からは土曜会という邦人仲間との昼食会がある。テニスを早めに切り上げ、土曜会を休めばエキスパット・クラブに参加できるのであるが、講演も質疑応答も英語である。はっきりいって気後れする。しかし、何度もピーター、サンディが誘ってくれるので、一度は行かなければという気になった。
会場のインカムホテルの会議室入り口で150B払ってノンメンバーの登録をする。自分と同年輩の白人ばかりだ。タイ人の奥さん同伴の人もいる。多少緊張するが、ピーターが自分を見つけて席に案内し、近くの人に紹介してくれた。こういうところは日本人会よりもフランクな気がする。隣はロン、デービィという米国人夫婦、チェンライに住んで5年、始めの2年は山岳民族のラフ族支援の仕事をしていたそうだ。今もフルではないが支援活動に携わっているとのこと。ニューヨーク出身ということでブロードウェイの話で少し盛り上がる。
この日はチェンライの米国総領事、ミッチェル・モロー氏の講演(画像)だった。40歳くらいと思ったが後で略歴を見ると1984年マイアミ大卒、86年コロンビア大学国際関係論修士となっているから40代後半なのだろう。30人ほどの聴衆を前に、総領事館の役割、昨今のタイ政治情勢についてスピーチを行った。彼はガボン、ソビエト連邦、ナイジェリア、ポーランド等に勤務した生粋の外交官である。前職はワシントンで危機管理支援作戦センターのダイレクターだったという。
チェンマイに総領事館を置いているのは米国、日本、中国の3カ国だけだそうだ。米国総領事館にはモロー総領事以下24名の米国人を含む150名のスタッフが勤務している。さすが米国である。チェンマイ総領事館の仕事には中国の監視が入っているとはっきり言った。今は中国といい関係にあるが、中国のタイ経済進出が、国際ルールに則っているかどうか、政治的影響力をどう行使するか「ウォッチ」し、レポートを本国に上げているとのこと。またミャンマーからの12万人もの難民の保護にも関心を払っている。ミャンマーからタイ国内に持ち込まれる麻薬に関しては本国からの専任チームが、タイ政府と共同して取締りにあたっていると述べた。人権問題、エイズ、マイノリティ(少数山岳民族)支援のNGOと共同するのもチェンマイ総領事館の大切な仕事である。
米国大使館は赤シャツ党、黄シャツ党の幹部レベルと常に接触を保ち、情報の分析に努めている。モロー総領事自身、チェンマイの赤シャツ党幹部と連絡を取り合っていたという。赤シャツ党、黄シャツ党双方に「正統性(レジティマシー)」があり、いつタクシンが有力なビジネスパートナーとなって返り咲くかわからない。タクシンを国連や米国が「テロリスト」に認定することはないが、彼が米国入国を望んでもかなり高い確率で米国は拒否するであろう、といった見通しを述べた。
総領事は、もし、タイでクーデタなど在住米国民の生命が危険にさらされる事態が起こったときは、米軍を使って皆さんを国外に脱出させるプランが出来ている、このプランには英国、カナダ政府も協力すると言明した。更に自分は1990年代、レバノンから3週間で1万5千人の米国人を脱出させた実績があると胸を張った。タイ人のカミサンがいるのだが一緒に行けるのかというフロアからの質問に対しては、直接の家族ならいいだろう、ただし甥とか姪はだめですよ、といった具体的な答えが返ってくる。
最後に総領事は、実は私、3週間後にバグダッド勤務になるのです、私の在任中にイラクから米軍が全部引き上げることになるでしょう、と日本の外交官なら絶対に口にしない人事の話でスピーチを締めくくった。
外交官の役割、国の威信について考える有益な講演だった。どのような事態が起こっても邦人救援のために自衛隊機が北タイに飛来してくることはまずないだろう。