タイ語の勉強
タイ語の個人教授を受けておおむね1年になる。チェンライでの生活は1に介護、2にテニス、3、4がなくて5にタイ語である。ロングステイヤーでタイ語を習い始める人は多い。しかしその95%は1年以内にやめてしまうという。簡単な日常会話が出来るようになった、授業料がこちらの物価に比べて高い、難しくて授業についていけない、など人によってさまざまな理由があると思う。
なんとか学習継続者5%に残ること出来たのは、タイ語を教えてくれるジアップ先生がきれいで、教え方が上手だからだ。(画像) 年末、年始に3週間ほど授業を休んだ以外は、長期の休みなしに月、水、金と週に3回、学校に通っている。タイの学校の夏休み、春休み、いわゆる旗日、国民の祝日であっても授業がある。ジアップ先生は教えることが大好きで、生徒をいつも褒めてくれる。だからデキの悪い自分のような生徒でもめげることなく続けられたのだと思う。先生は英語が堪能だから、時にはタイ語の授業そっちのけで、タイ、ウズベク、日本の文化の相違、チェンライの美味しいレストラン、タイ人男女関係の裏などの話で盛り上がる。
ただ単にタイ語をならうだけではなく、ジアップ先生を通してタイ人の考え方、文化、社会を見ているように思う。タイは階級社会である。彼女の見方はタイ中産階級を代表している。それは支持政党、上流階級に対する無関心、あるいは地方農民に対する一種冷ややかな感情、そういったものに彼女の階級意識が垣間見える。語学力の関係で、余り他のタイ人と交流することがないから、タイを見る目が彼女に感化されていると言えるかもしれない。
ところで今、A4の紙4ページの「本当の人生(チーウィット・チン)」というエッセイを元に授業をしている。まず習っていない単語の読みと意味の説明がある。そのあと先生が文章を読み上げる。次に自分が読んで逐次訳を行なっていく。それが終ると内容についての質疑応答、といった具合に授業は進む。タイ語は表音文字であるから、意味がわからなくても44字の子音と9つの母音(それぞれに長母音と短母音があり、これで18、それに3つの二重母音とそれに対応する短母音があって合計24)さえ覚えれば、意味がわからなくても読める、ローマ字やハングルと同じだ、と言う人がいる。
その通りだが、68覚えるのは楽でない。ローマ字と違って例外が多すぎる。例えば字はあってもその字は無きが如く発音しないという字がある。更に中国語に4つある声調(アクセント)がタイ語には5つもあり、これを正確に発音しないとタイ人に通じない。正しく発音できれば正しく書けるし、正しく書ければ正しく発音できる、はずなのだがこれまた道はまだ遠い。
さて、テキスト「本当の人生」は次のようなストーリーだ。
30年以上も前の話、タイの片田舎にミンという男の子がいた。彼の記憶は3歳に遡るのだが、覚えていることといったら、いつも両親が喧嘩をしているということだけだった。彼が5歳のとき両親は離婚する。ミンは父親に引き取られる。ある日、実母が彼に会いに来たのだが、前と同じように父親と母親は喧嘩を始めた。それを見るのが厭さに彼は家を出て、当てもなく歩き始める。バスがとまっていたので、何処に行くともわからないまま、バスに乗った。すっかり寝込んでしまって、彼が起きたとき、バスには彼と運転手しか乗っていなかった。
やがてバスが停車し、運転手が、終点のバンコクに着いた、さあ、降りた、降りたとせかす。バスを降り、どうしていいかわからないまま暗くなるまで歩き続けた。泣き疲れたミンは橋の下にやっと寝場所を見つけることができた。3日たって、彼はローティーンの男の子3人に捕まって小さな狭い家に連れて行かれた。そこには汚らしい男の子や女の子が何人もいた。痩せて凄みのあるギャングの親分に、明日から乞食をして稼げ、と命令される。
稼ぎのあるときは食事を与えられたが、稼ぎが悪い時は食べさせてもらえないという食うや食わずの生活だった。ある日、もうこんな生活は厭だ、と一人の男の子が家を逃げ出した。運の悪いことにその子は、捕まって家に連れ戻される。散々殴られた挙句、その子は見せしめのために片足を切り落とされてしまう。その光景をミンは他の子と一緒に見せられた。逃げ出して、もし捕まったら本当に殺されてしまう、決して逃げたりしない、と彼は自分自身に誓うのであった。(続く)