チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

客員講師

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客員講師
1月から授業をしている。授業日程は授業開始日の直前、2日前に発表になった。昨年度は秋に集中講義があり、週に3つ新しい出し物を考えて講義した。そして1月からは週1回新しい出し物を考えるだけでよかった。今年度も1月からはラクになると思って秋の前学期に昨年度1年間で評判のよかった授業をあらかたやってしまった。

ところがナフォサットの持ってきた1月からの授業日程を見ると、秋の集中講義と同じく、週3回、3クラスで教えることになっている。政府の方針が変更になって、起業教育に力を入れることになったのだそうだ。予定の3倍に授業回数が増えた。3月まで各週、3つ新しい講義案を作らなければならない。

お客さんに、家の冷蔵庫にあるだけのご馳走を出して歓待して、ほぼ料理を食べ終わったところに、またお客がやってきて、どうしよう、コンビニに走ろうか、といった感じか。お客さんならにぎやかで大歓迎だが、営々と借金返済に苦労し、やっとローンの繰上げ返済が終わったと思ったら、また新たに負債が出現した、といった暗澹たる気分、というのが正直なところである。

生徒の前では長いキャリアがあって、ベンチャー経営学のことは何でも知っているように振舞っているが、実は大学では法学部政治学科というところを卒業していて、経済学を本格的に勉強したことはない。

ベンチャーの経験といえば、サラリーマン生活の中で一時期ベンチャー関連の財団に出向していたに過ぎないが、それでも歴史の浅い世界だから国際会議のモデレータ、パネリストを務め、レポートも書いたので、少しは他の人より知識がある。しかし経営学は「猿でも分かる・・」といった入門書を始めとし、知り合いの大学の先生に参考書を教えてもらい個人教授を受け、やっと経営学のあらましを理解した程度。

持ちダネの少ない落語家のようなもので、小話でつないだり、1つの話を2つに分けたりして大変な日々を送っている。何しろ人が思ってくれるほど能力がない。

夏目漱石が東大の英文科で教えていたとき、授業中、懐手をしている横柄な学生がいた。「失礼だ、ちゃんと手を出しなさい」と叱ったところ、他の学生が「先生、彼は片腕がないのです」と小さい声で教えてくれた。すると漱石先生は「ボクだって無い知恵を出して講義しているのだから君も手を出したまえ」と言ったそうだ。ウズベクで教えてみると漱石先生の気持ちがよくわかる。(なお、この話は岩波書店の無料小冊子「岩波」に出ていたと記憶する。何号かあとに、ハイ、その学生はXXと言って私の祖父に当たります。子供の頃に馬車に轢かれて左手を失ったそうです、といった後日談が載っていた)

必死になって毎週、新しい講義案を作るのと同時に、仲間のSVにも応援を求めた。特別講師として自分の代わりに授業をしてもらうためである。生徒にとって、自分のベンチャー論を聞くより、変わった外人講師が来て変わった話をしてくれた、面白かったというほうが教育効果はあると思っている。

1月には考古学専門のSV、Uさんに「時間学から見た考古学」という演題で講義をお願いした。考古学の歴史から各国での遺跡発掘の経験談、テルメズの仏教遺跡発掘の成果に至るまで、分かりやすく話してくれた。自分も面白く聞いたし、生徒も感銘を受けたようだ。次の授業では、Uさんは子供のときからの趣味が仕事になり、その仕事で世界中を駆け回っている、実に幸福な人生と言わざるを得ない、皆さんも自分が好きになれる仕事を見つけるように、もし自分が好きと思えるビジネスを起こすのだったら、どんなに苦労があっても頑張って続けていくことができるでしょう、などと話をした。

2月にはたまたま日本から旅行に来ていた友人のMさんに教壇に立ってもらった。教壇に立つのは彼にとって生まれて初めての経験だ。自分が話しすぎてしまって彼の持ち時間は15分程度になってしまったが、自己紹介を兼ねて一般銀行と投資銀行の違いを判りやすく生徒に説明してくれた。いくつか質問も出た。

「学校で学んだことを一切忘れてしまった時に、なお残っているもの、それこそ教育だ」と物理学者アルベルト・アインシュタインは言っている。

自分の講義したこと、また自分のことなど何時か生徒は忘れてしまうだろう。でもU さんやMさんが一生懸命、何かを伝えようとしていたその姿を、20年後、30年後にきっと生徒たちは思い出してくれると思う。

そういった場を生徒に提供できたことをUさん、Mさん始め、自分に代わって講義を引き受けてくれた友人たちに感謝している。