チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

怪しい会社

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怪しい会社

夜9時ごろ、ナフォサットから電話があった。明日授業が終わったあと、生徒と一緒にある会社に行ってもらえないかというのだ。何の会社はよくわからないがその生徒の知り合いがいて、自分にいろいろアドバイスをして欲しいとのこと。ベンチャー論を教えているので、クチコミであの先生は儲かる方法をよく知っていると評判になっているのだろうか。授業のあとは特に予定もないので承知することにした。何分にも可愛い生徒の頼みではあるし、ウズベクの知らない面を覗いてみるのもいいだろう。

次の日、授業が終わると、ポラトフという大人しい感じの生徒が研究室に現われた。どんな会社で、どういった目的で会いたいのかと聞くのだが、とにかく大きな会社でビジネスパートナーを求めている、などとさっぱり要領を得ない。向こうの会社には英語がわかる人、あるいは通訳がつくもの、と思っていたが、通訳がいないのでナフォサットと一緒に来てくれという。彼女も同意してくれたので3人でミニバスから地下鉄でユニサバード線終点のビュイック・イパクヨリ駅まで行く。そこからはタクシーだ。道々どんな会社かと聞くが、飛行機なども作っている大きな会社だという。この国では飛行機を作っている会社はない。サマルカンドであったか、ツポレフのプロペラ部分を作っている会社があったが昨年、ロシアが引き上げてしまったから飛行機部品を作っている会社もないはずだ。

タクシーで走ること10分、住宅街の一角にその会社はあった。特に看板はなく、普通の家をオフィスにしているようだ。ドアから数人の人間が出てくる。お客にしては暗い感じだ。社員だろうか。ポラトフに促されて、中に入る。応接セットが入り口にあるがレセプショニストはいない。照明も暗く、実に怪しい。奥は会議室になっていて数名の若い人たちが会議をしているのが見えた。笑い声が聞こえるわけでもなく、皆小声で真剣に話している。

スプリングの壊れた長いすで5分以上待たされた。来る途中、会社からポラトフに何度も携帯電話がかかっていたので、よっぽど到着を心待ちにしているのかと思ったがそうでもないらしい。

奥に行っていたポラトフが戻ってきて、応接室に案内してくれた。応接室の隣にはやはり会議コーナーがあって7,8人の男女がひっそりと話している。応接室と言っても4,5人用の小会議室だ。窓はなく、空気がよどんでいる。粗末なパイプイスが警察の取調室を思わせる。ナフォサットが何か気持ちの悪い部屋ですねと言う。全くその通りだ。

やがて部長という30代半ばのツルリとした表情に乏しい男が現われた。ジャミールと自己紹介するが、名刺を出さない。もちろんこちらも渡さない。会社案内でも持ってきたのかと思ったら、単なるメモ用紙だ。お互いの自己紹介もロクロクすまないうちに、人間、生まれてきた目的はなんでしょう、お金を稼ぐことに決まっていますよね、などと紙に何か書きながら滔々と語り始める。やっぱり勘は当たった。エル・アンド・ジー、円天と同じねずみ講マルチ商法だ。

ビジネスパートナーになれば2年以内に月々2千ドルずつ支払われるのです。2千ドルですよ、2千ドル。ちょっと待って、自分はJICA以外の仕事をウ国ですることを禁じられているし、あと半年で帰国する。いえ、配当は日本でも受け取れるのです・・・

そのうち、社長と称する背広をぴちっと着込んだ37,8の男も出てきた。この男も名刺を出さない。弊社は中国の天津企業の支店です。天津企業、もちろんご存知ですよね。航空産業、自動車産業、観光業、ありとあらゆる産業を配下に持つコングロマリットで世界190カ国に支店があります。すみません、貴方は私がどういう経歴かもご存じない、私はもう働く意思のない人間ですから、いくらお勧め頂いても時間の無駄です。ビジネスパートナーをお探しでしたらジェトロにご相談されては如何ですか、と言って話を打ち切った。

オフィスを出るとき、ケケケ、と笑ってナフォサットに不審がられた。だって絵に描いたようなマルチ商法の勧誘なんだもん。結構、ウズベクでも中国の漢方薬を売るマルチ商法がはやっているらしい。市場化経済に慣れていないアルバニアでは、国民の3分の1を巻き込んだマルチ商法が破綻して1997年に大暴動が起こっている。確かに笑い事ではない。

それにしてもノーリスク・ハイリターンの美味しい話(ジューシー・ストーリー)は「詐欺話」と心得るべし、とあれだけ授業で教えたのに、あまりまじめに聞いていないものだなあ。

「怪しい交通標識」(画像はファルファド・バザール付近)