上海協力機構首脳会議
いささか旧聞に属するが、8月16日に上海協力機構(ロシア、中国、カザフ、キルギス、ウズベク、タジク、通称上海シックス)の首脳会談がキルギスの首都ビシケクで開かれた。日本の主要紙は首脳会議が反米色の強い会議であったことを伝えている。
例えば朝日新聞の記事。
中国、ロシアと中央アジア4カ国でつくる上海協力機構(SCO)の首脳会議が16日、キルギスの首都ビシケクで開かれた。各国首脳は、テロ組織や分離独立運動など、加盟国に脅威を与える勢力に協力して対抗するとした「長期善隣友好協力条約」など八つの文書に調印した。加盟国による大規模軍事演習も進行中で、安全保障面での緊密化を印象づけた。 首脳らは、情報技術(IT)を使ったテロや違法活動に共同で対処する「国際情報安全保障に関する行動計画」を決議。「中央アジア地域の安定化は、地域国際機構の下、各国の力量に基づいて保障するべきだ」としたビシケク宣言では、同地域やアフガニスタンに展開する欧米軍事力への警戒感をにじませた。
今回の首脳会議で、ロシアのプーチン大統領は「最重要課題はSCOの国家の安全強化だ」と強調。08年北京五輪で、SCOが安全保障面で協力しようと提案した。イランのアフマディネジャド大統領は「中東などで占領を続け、ミサイル防衛(MD)施設の建設を進める国の脅威はSCO加盟国にも向けられている」と述べ、米国を批判した。 安全保障の緊密化に積極的なのは、MD問題などに強く反発し、欧州の通常兵器の保有上限を決めた欧州通常戦力(CFE)条約の履行停止を表明したばかりのロシアだ。 新疆ウイグル自治区の分離独立運動に神経をとがらせる中国は、対テロ協力には積極的だが北京五輪を控え、国際社会への刺激は避けたいのが本音だ。軍事ブロック化には反対し、中央アジアでのエネルギー・経済協力の強化の方に関心をみせている。
旧ソ連であったウクライナのNATOへの参加希望や、東欧へのミサイル防衛(MD)配備に神経を尖らせるロシアとしては上海シックスをNATO対抗する軍事同盟にしたいと思っているようである。しかし2007年8月23日付けのエコノミスト誌は、あの6カ国は水資源問題、領土問題で年中もめていて仲が悪い、それに上海シックスを主導するロシアと中国は戦略目的が一致しないばかりでなく、信頼関係を築いたことなど歴史上絶えてなかった、と伝え、上海シックスが軍事ブロック化することはありえないと断じている。
一方、米国は、国務省のマコーミック報道官の談話として「上海シックスが会議に誰を招待しようと彼らの勝手である」とイランの参加に冷静を保ち、エネルギー価格高騰で潤沢な資金を持つロシアが戦略爆撃機による長距離パトロールを冷戦後初めて再開するとぶち上げたことに対しても「苔を払って旧型機を再飛行させるというのであればどうぞご勝手に」とまことにそっけない。
いくら友好と結束を強調しても、あの6カ国が一致団結するとは思っていないのだろう。確かに上海シックスの団結力や軍事ブロック形成を疑わせる証拠はいくつもある。
2年前の上海シックス首脳会議では中央アジアからの米軍、NATO基地撤退を決議したが、今回首脳会議が開かれたビシケクから数キロのところにいまだに米国のマナス空軍基地がある。そのことを伝えた日本の新聞はない。首脳会議に先立ってキルギス政府は、この米軍基地を調べていた中国人スパイを逮捕した。あんなに中国から援助を貰っているのに、と関係国を驚かせたものだ。
ウズベクはアンディジャン事件後、ウズベクに駐留していた米軍を撤退させたものの、アフガンへの物資輸送を行うためドイツ軍には基地を提供し続けているし、タジキスタンはタリバン掃討作戦の一環としてフランス軍に飛行場を使用させている。
またカザフスタンはNATOに支援された軍事協力会議(パートナーシップ・フォー・ピース)のメンバーである。更にアゼルバイジャンと共に米国に支援されたカスピ海へのパイプライン敷設計画に合意している。
というわけで上海シックスも舞台裏を見ればとても一枚岩とはいえない。歴史的に中国は旧ソ連諸国に嫌われている。胡錦濤国家主席には休息時間に誰も寄っていかないという話を聞いたが、今回のビシケク首脳会議では故意か不手際かはわからないが、胡錦濤主席の演説に通訳が用意されておらず、参加者は主席の中国語をポカンと聞いているだけだったという。
ウズベクのカリモフ大統領はというと首脳会議で、アムダリア、シルダリアの水資源管理の平和的取り決めを訴えたが、何も具体策は示さなかった。上海シックスは内心はともかく「取りあえずきれいごとを言っておく」という各国の思惑一杯の会議だったようだ。
(画像はファルファドのバザールから)