カイゼン
元日本留学生、K君から是非会いたいというメールが来た。彼は数年前、早稲田大学のアジア太平洋研究センターに留学し、いくつかの日本企業を見学して日本のカイゼンに関する修士論文を書いている。カイゼン(改善)はすでに国際語となっている。カイゼンとは日ごろの日常業務から時間とカネをかけずにムリ、ムダ、ムラを省いて、生産性向上、効率化を図ろうという運動である。日本の企業ではほぼ定着しているといえる。
トヨタの社長は一番悪いやり方は今、貴方がやっているやり方です、と言っている。今のやり方でいいのかという疑問を持ち、工夫、知恵によって少しでもやりやすい、無駄のない、お金のかからない方法を生み出す。仕事には目的があるわけだが、そこに到達する手段はひとつではない。こういう方法ではどうだろうか、手順はこれでいいのだろうか。常にやっている仕事に疑問を持ち、より簡単な、よりミスの少ない手段を考える。
カイゼンはカイゼンレポートを書くことによって多くの職場にその知恵が共有される。レポートの内容はいたって簡単で「,海鵑淵▲曚覆海箸鬚笋辰討い泙靴拭↓△修譴鬚海κ僂┐討澆泙靴拭↓そうしたら少しやりやすくなりました」の3つだけである。
世界中で一番アホなことをやり続けている会社はというとトヨタである。トヨタでは今でも年間60万件を越えるカイゼン提案が寄せられる。50年以上カイゼン運動をしているからゆうに3千万件を越える「アホなことをやっていました」事例があるわけだ。。
まず疑問を持つ、これはベンチャーにもいえることだ。なぜお客は不満を持つのか、なぜこういうサービス、製品がないのか、あればお客は喜ぶのではないか、こういった問いかけがベンチャーの原点である。
バンク・カレッジでカイゼンを教えるにあたって、カイゼン活動がどのようにウズベクで定着しているかを聞くために、K君と食事を共にしたことがある。彼は外資系流通企業のマネージャーをしているが、自分の職場でカイゼン活動を推進しているようには見受けられず、またカイゼン活動が他のウズベク企業で行われているという事例を彼から聞くことができなかった。カイゼン活動はパートさんや現場で働く一般社員を巻き込んで、ボトムアップの会社全体の活動として推進しなければ意味がない。現場で働く人々の自発的参画がなければカイゼン運動は進まない。社会主義のトップダウン、命令下達方式になれたウズベクではカイゼンはなかなか浸透しにくいのかな、と思ったものだ。
待ち合わせ場所に行ってみると、K君と彼の友人2名が来ていた。目が生き生きしていて、このたびエンジニアの友人2名の協力を得て、カイゼンコンサルタントのベンチャーを立ち上げることにしました、ついては顧客紹介などいろいろ便宜をはかっていただけないでしょうかと身を乗り出す。
思わずため息がでた。Kさん、ビジネスを立ち上げるに当たって、以下の3つの内でどれが一番重要だと思いますか、と問いかけた。^靴製品、サービスの内容、▲廛蹈侫ット(儲かるか)、G笋譴襪(マーケティング)。そりゃ儲かるかどうかが一番重要ですという。でもね、まず製品が売れなければ、顧客に受け入れてもらえなければ儲からんのだよ、製品、サービスがどんなに素晴らしいとしてもそれは売り手の思い込みであって、顧客がそう思わなければ決して売れない。まずカイゼンのニーズ、マーケットがあるのですか。つまり、カイゼンについてお金を払っても聞きたい、コンサルを受けたいという会社はありますか? それよりもカイゼン活動について何らかの実績をもっていますか?
このコンサルタント会社立ち上げのビジネスプランは、ネットでコピーしたものですね。Kさんが本当にこの国の企業をカイゼンで変えていきたいという強いミッションを持っているのであれば、Kさんの言葉でビジネスプランを書き直すべきです。更にアドバイスするのであれば、今お勤めの会社で、やめてみた、減らした、変えてみたの3つの改善事例をそれぞれ10例作り、パンフレットを作りなさい。そして現場の人のクチコミでカイゼンは我々のためになる、だからやるという評判を広めなさい。そして3年は無料でコンサルをやって自分の信用を作り、自信を深めなさい。
相手のためとはいえ耳に痛いことばかり言ったようだが、カイゼンが1,2時間のレクチャーやトップダウンで浸透するとは思えない。こちらのエリートにありがちな思考方法ではあるが、現場の人の気持をちっとも理解していないのではないかと心配になる。
是非、中西さんに我々の顧問になって頂き・・・という依頼には次回のビジネスプランを見て、と言葉を濁す以外になかった。
(画像はクイルックバザールにて)