学校プロフ その1
プロフは日本でいう「ピラフ」のことだが、ピラフが、ゴハンに油やバターを加えたものに対し、プロフは油にご飯粒が浮いているといった感じである。大なべで大量に作る。鍋の底には10センチ以上の油が沈殿している。その油をひしゃくですくって、ゴハンの上にざぶざぶとかける。ピラフの上品なイメージとは違う、「油おじや」といった野趣に富むものだ。米と同量の人参の千切りを加え、他に羊肉、ぶどう、胡椒、グリーンピース、よくわからない香辛野菜などが入っている。油はこちらで安価に手に入る綿実油である。こちらの綿実油は精製度が低いので、慣れないとおなかを壊すと言われている。朝プロフはまだ新鮮でいいが、油にゴハン粒が浮いている売れ残りの夕プロフには気をつけろ、と教わった。特にプロフとコーラなどの発砲飲料の組み合わせは90%の確率でおなかをやられると脅かされたものだ。
來ウ以来、睡眠時間を充分取り、健康には気をつけている。ほかの人のように腹を壊し3日くらい絶食を強いられたということはない。何であなただけが腹も壊さず、何喰っても平気なのかと仲間からうらやましがられることがある。恐らく小さいときから衛生環境劣悪、落っこちているものを拾って食べることはなかったが、木の実、草の実などを生食するような生活だったからでしょう、などと答えている。
意外とSVでおなかを壊す人は多くない。壊してもすぐ直る。ところが赴任したての青年海外協力隊員は、来ウ直後に全員ダウンしてしまい、先輩隊員たちが米、炊飯器、水をホテルに持ち込んで、おかゆの炊き出しを行った。緊急応援物資を運ぶ隊員に出会ったら、ミネラルウォーターや米のほかに大量の高級トイレットペーパーを持っていた。ごしごし拭くと大事なところがシリシリし、時には出血してしまうゴワゴワのウ国製トイレットペーパーは受け付けないようだ。
話しは元に戻って、プロフは何かお祝い事のあるときには欠かせないアイテムだ。日本のお赤飯を更にポピュラーにしたものといえる。
バンク・カレッジではこれまで3度ほど、プロフパーティがあった。一度目は入学試験のあとの慰労会。二度目は9月1日の独立記念日のお祝い会である。1日は祭日で2日から授業開始であるから、先生方の新学期を控えての出陣式も兼ねている。
3日ほど前に学生部長から独立記念日を祝うプロフパーティの案内があった。前日予告でないのがこの日の重要性を物語る。当日は学長室となりの特別会議室に連れて行かれた。20名ほどの学校幹部、年配教師に混じって、地元警察幹部、モスクの坊さんが来ていた。机の上には果物、乾菓子、ヨーグルト、パンなどが並べられている。やがて、大皿に盛られたプロフが次々に運び込まれる。まず坊さんがコーランを5分ほど唱える。その間全員、手のひらをそろえて上に向ける。お祈りが終わるとその手で顔面をツルリと撫でて、やおらプロフにとりかかる。プロフのてっぺんに乗っている肉と真っ白な脂肪を手でちぎって細かくする。直径40センチくらいある大皿に山盛りのプロフは2人前だ。自分のパートナーとなった先生が「オリン、オリン(食べなさい)」と盛んに勧めてくれる。太るなあと思いながらも羊の脂肪は美味しいのでつい
つい食べてしまう。
学校幹部、関係者のプロフパーティは30分ほどでプロフを食べつくしたところで終了した。そのあとこれとは別に一般の先生たちが全員集合してプロフを食べている学校食堂に案内された。はいって右側は男性、左側が女性席となっている。四分六で女性教師が多いので女性席はぎっしりだ。総勢200名はいるだろうか。どういうわけか歌手が来ていてカラオケをバックに流行歌を歌って会場内を盛り上げている。
そのうち、デュッペを被った坊さんが現れて、ここでもコーランの詠唱が行われる。詠唱が終わるとまた全員、手のひらで顔を撫でてパーティ終了となる。
三度目の学校プロフは10月1日の「教師の日」を祝う会で40名ほどの男性教師が学生寮の食堂に集まってプロフを食べた。男ばかり、ただ黙々とプロフを食べるだけ。30分ほどで終了。大量に作ったプロフは寮生活をしている生徒にも振舞われた。
学校のプロフパーティの費用は歌手のギャラから果物のメロンにいたるまで全て学長のポケットマネーで賄われる。イスラム教徒の義務、六信五行の五行では1)信仰告白。2)礼拝。3)喜捨 4)断食。5)巡礼の5つを定めている。この中で「喜捨」はお金持ちの重要な義務だ。
貧しいものは富めるものから恵んでもらうのが当然だ、という考えがイスラム教にはあるから、プロフをご馳走してくれた学長にお礼を言う必要はないのだろう。
それにしても学長職はどれだけ儲かるものか、これは誰にもわからない。