





お一人様ご飯
■単身世帯増加
政府が2021年11月末に公表した20年の国勢調査の結果では、単身(シングル)世帯の割合が38.1%となり、05年比で8.6ポイント上昇した。高齢化が進むなか配偶者の死別や離婚が理由で単身となる人は多く、さらに若いうちからシングルで生きる「おひとり様」人生を選ぶ人も増えている。
自分も兄もシングル世帯である。今帰国しているから老人二人世帯となっている。自分も兄も料理を苦としないし、今はスーパーで何でも買える世の中、買ってきた食品だけで豪華な食事が楽しめる。でも家で食べればゴミも出るし、皿洗いも面倒、と外食で済ませる独り暮らしの人も少なくない。
たまの帰国であるから自分も外食が楽しみだ。外人観光客が日本は何を食べても美味しいし、それに安いんだよ、と言っているが自分も同じ感慨を持つ。ラーメン一杯、牛丼一つをとってもタイでは味わえない美味しさだ。
何でも美味しいが、その中で何が一番美味しいかと聞かれれば「生ビール」と答えたい。タイのビールは仕方ないから飲んでいるが日本の発泡酒の方がずっと美味しいのではないか。スーパーで買ってくる缶ビールも悪くはないが、やはり店で飲む生ビールの味は格別だ。ぐっと飲み干す最初の一口、日本に帰ってきた幸せを感じるときである。
■お一人様専用席?
生ビールが飲みたくてファミリーレストランに入った。右側の列は2人が向かい合うテーブル席になっていた。でも2人席でありながら店の奥に向かって一人だけ座っている。自分は店の入り口に向かって座っていたから観察できたのだが、ひとり席はすべて女性だった。ピザを前にデカンタの白ワインをちびちびとやりながらPCを開いている女性もいる。ハンバーグ定食を食べながら携帯に見入る女性もいる。おおむね30代後半から50代という年恰好だった。さすがに10代、20代のお一人女性はいなかった。
そういえば外人女性が、日本では女性一人でレストランに入っても嫌な顔されない、可哀そうねーという同情の目で見られることがない、それが快適と話していたことを思い出した。欧米ではエスコートのない女性は変な目で見られるらしい。チェンライ、チェンマイのレストランでも女性の一人客はいない。レストランどころかその辺の屋台のソバ屋でも女性一人客を見た覚えがない。タイ人は何かと友人とつるんで歩くからおしゃべり無しの孤食は考えられないのかもしれない。
10年ほど前に帰国した時、ラーメンの日高屋で白髪だが背筋のピンと帯びた女性が「もやしそばと中生一つ」と注文し、背筋を伸ばしたまま中ジョッキを空けていた。その凛とした仕草に好感を抱いたが、そのころから女性が何の衒いもなくレストランに入るようになったのではないか。
■店から見た利点
欧米のレストランが一人客を歓迎しない理由は何人も座れるテーブルを一人で占有してしまうから、という。一卓四人と一人では売上高が違う。だから男の一人客も嫌われるとか。でも単身世帯の増加に伴って、このお一人様ご飯、お一人様グルメが新たな市場となってきたようだ。ファミリーレストランでは周りの視線を気にしないで済むよう、壁や間仕切りで設けた席を用意している。スシローではお一人様でも利用しやすい仕切りの付いた「ボッチ席」を用意している。お一人様の要望を無視した飲食店はビジネスチャンスを失うとまで言われている。お一人様ご飯と間仕切りはコロナの時に増加した。その傾向はコロナ後も変わっていない。
お一人様ご飯の店から見た利点は
1. 回転率が上がる
2. 客単価が高くなる
3. リピート率が上がる
ということらしい。一人だと食べることに集中し、食事が終わればすぐ退店してくれるから回転率が上がる。また一人客は日頃の自分に対するご褒美と思って高いものをオーダーしてくれる傾向があるとか。また一人ご飯の居心地を知った客はリピータとなる。リピータはネットで店を宣伝してくれるので更に客が増える。
お客にもお店にもいいことばかりのようだが、できることなら質問してみたい。
一人で食べていて楽しいですか、誰かと料理をシェアしあって、お互いの趣味や観た映画、読んだ本のことを語り合い、笑いながら食べる方がいいのではないのですか。
そんなことわかっているわよ、いい人がいないから一人で食べてんの、それともアンタ、アタシに食事付き合ってくれるの、ワリカンでもいいからさ。
ファミレスのお一人様ご飯女性たちを改めて思い起こしてみた。悪いけれど全額払ってあげるから、と言われても一緒に食事をする気にはなれない。向こうもまっぴらよ、と言うと思うけれど。