男と女、人生最良の日々、ポスター
同上
理由なき反抗、ナタリー・ウッドとジェームス・ディーン
人生最良の日々
■映画館へ
週に1,2度は映画館に行っている。3月の帰国以来、50本ほどの映画を観た。凄いねと感心してくれる人もいるが、この世には無数の映画があって、一生のうちに観ることが出来る映画は砂漠の砂の一粒か二粒にしか過ぎない。
老い先短いから、かもしれないが、鳥のように空を飛ぶ、機関銃を撃ちまくって悪漢をやっつける、大銀行から金を騙し取る、このように楽しくて元気が湧いてくる作品が好きだ。今、「鬼滅の刃」という映画が大人気のようだが、もう少し観客が少なくなってから行こうと思っている。どちらかというと高齢者がまばらに座っているミニシアターで古い洋画を観るというのが性にあっているようだ。
ミニシアターは概ね2本立て、2本の映画の選択には劇場主の思い入れが感じられる。
「オン・ザ・ミルキー・ロード」、「鉄道運転士の花束」の2本はあまり馴染みのないセルビア映画だったが、内戦の惨たらしさ、鉄道システムの違いなどが分かってそれなりに楽しんだ。「理由なき反抗」と「エデンの東」はジェームス・ディーン没後60年と銘打たれた2本だった。溌剌とした女高生を演じるナタリー・ウッドが眩しかった。彼女は謎の水死を遂げているし、ディーンも若くして交通事故で亡くなっている。
古い映画を観ると、ああ、この人も死んでる、あの人も死んでると回想にふけることが多い。自分もソロソロ、という思いが頭の片隅をよぎるが、今は亡き、存命していてもジジババとなったスターの輝いている姿を観ると、自分だって突然、古希のジジイになったんじゃねーしな、とほろ苦き我が青春を思い出す。
■「男と女、人生最良の日々」
ネットの時代だから映画館に行く前に、映画の評価をチェックする。レストランの評価と同じで、あくまでも参考程度。でも評価はそれほど高くないが、個人的にこれはよかった、と思う映画はある。その一つが「男と女、人生最良の日々」だ。
解説にはこう記されている。
フランスの名匠クロード・ルルーシュ監督が1966年に手がけ、第19回カンヌ国際映画祭パルムドールとアカデミー外国語映画賞、脚本賞を受賞した名作恋愛映画「男と女」のスタッフ&キャストが再結集した続編。前作の主演アヌーク・エーメとジャン=ルイ・トランティニャンが同じ役柄を演じ、53年後の2人の物語を過去の映像を散りばめつつ描いた。元レーシングドライバーのジャン・ルイは、現在は老人ホームで暮らし、かつての記憶を失いかけている。ジャン・ルイの息子はそんな父のため、父がずっと追い求めている女性アンヌを捜し出すことを決意。その思いを知ったアンヌはジャン・ルイのもとを訪ね、別々の道を歩んできた2人はついに再会を果たす。
よく50年前の俳優とスタッフが生きていたものだ。主演者が高齢の為、映画保険の引き受け会社はなかった。映画の中で効果的に使われているテーマ音楽https://www.youtube.com/watch?v=_fU2RtXzFIoを作曲したフランシス・レイは映画の完成の前に亡くなっている。
■たとえ思い出さずとも
50年を経て、アンヌは老人ホームでジャンに向き合う。想い出してくれるかしら。ジャンは言う。「ボンジュール、アンタ、新入りかい?」。それでも彼女は彼の許を何度も訪れ、ドライブに連れ出して二人の思い出の場所をめぐる。ジャンはベルレーヌの詩を朗々と暗唱したかと思うと、女医さんに「今晩、ボクと寝ない?」と軽口をたたくのだが、アンヌのことは思い出さない。
アンヌは海辺の二人が愛を交わしたホテルの、思い出の部屋にルイを案内する。ここで私たち・・・・、何も言わずに女は男を見つめる。アヌーク・エーメは80をとうに越えた老女であるが、その時の表情はまるで少女のような期待と不安に満ちている。
50年前、このホテルで別れたアンヌは一人、夜汽車に乗ってパリへ戻る。残されたジャンは狂ったように車を飛ばし、彼女を追う。早朝のパリ市街を全速で駆け抜けるジャン、列車をわずかに追い越したジャンはパリ駅で驚くアンヌを抱きしめる。この映像がフラッシュバックしてそれにフランシス・レイの音楽が重なる。もう年老いて激しさはないが、ひたむきなアンヌの愛情がしみじみと伝わってくる場面だ。
タイトルの「男と女、人生最良の日々」は、ヴィクトル・ユーゴーの「Les plus belles années d'une vie(人生最良の日々とは、まだ生きていない日々 だ)」という言葉からとられている。瑞々しい心があれば、いくつになろうと人生最良の日々を送ることが出来る。
この映画は若い人には理解できないかもしれない、年を取ればわかるさ、そんなことを考える自分は今、人生最良の日々を送っているのではないか、と思う。