チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

法整備支援の苦悩

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法整備支援の苦悩

1980年代後半から90年代初頭にかけての社会主義体制崩壊に伴って、グローバルな市場経済に参入を余儀なくされた東欧および旧ソ連諸国は、抜本的な法制度の変革を迫られた。効果的な市場経済体制への移行には法に裏打ちされたガバナンス、法の支配の樹立が重要であると認識されたのである。しかしその法制度改革の試みはまだ成功には程遠い。

米国は米国国際開発庁(USAID)を通じて世界121カ国に対して、法整備支援事業を続けている。USAID の支援の特徴は民主主義の促進という理念を掲げていることである。民主主義のもとでなくては法の支配は確立できない。国家権力が法を乱用し、あるいは恣意的に制定、改廃し、司法の独立性がなく、社会的弱者は司法へのアクセスができないといった社会、いわゆる民主主義ではない国家体制では法の支配はのぞむべくもない。
だから民主化と法整備支援を表裏一体に推進していこうというわけだ。
ウズベキスタンにもUSAIDは法整備支援を含め、多額の援助をしていた。しかし昨年のアンディジャン事件以降、独裁色を強めるカリモフ政権に対し、USAIDは法整備支援活動を停止してしまった。

「経済成長は短期的には独裁体制によっても生じるが、長期的な経済成長は、法の支配の発達および市民的ならびに政治的自由の保護に随伴する」とワシントン大学のダグラス・ノース教授はいう。この意見が正しければ独裁国ウ国の長期的経済成長はおぼつかない。
更に、ノース教授は「西欧世界の勃興」(ミネルヴァ書房)の中で経済成長のための必須条件として私的所有権の重要性を説いている。しかし、ウズベキスタンはロシアと同様、土地の私的所有を認めていない。土地はすべて国家が所有し、国民は利用権を認められているに過ぎない。だから土地を担保にしてお金を借りることができない。これは起業や事業拡張の大きな制約になる。所有権の概念が確立していないウ国に先進国の民法をそのまま持ち込めば社会は混乱する


次に、法は国家が国民を統制するためにある、と信じられており、国民を守るものではない。日本でいう六法全書にあたるものはない。誰もがアクセスできる法令データベースも未整備である。法令間に矛盾があり、また法令の下に膨大な下位法令があり、これが政府、一部特権階級の都合によりいとも簡単に改廃される。

こういった厳しい環境下にありながら、USAIDの支援が後退したあともJICAは法務省法務総合研究所名古屋大学と協力して、ウ国の市場経済発展のため、その基盤となる民商法分野の法整備支援を行っている。現在2名の長期専門家がこの業務に当たっているが、そのうちの一人Kさん(写真)を囲んでお話を伺う機会があった。
今、彼女が取り組んでいる仕事は、ヾ覿罰萋阿料乏架廾?僚鋧遏↓企業活動の融資にかかわる法令の整備というものである。六法全書もない国なので、法令データベースを整備し、企業家が法令情報を入手しやすくする、国家の恣意的な企業活動への干渉を阻止するための手続き透明化、あるいは抵当法および関連制度の整備といったものだ。
しかし、法整備とは法律を翻訳して渡すことではない。その法律がその国に根付くよう社会制度、社会慣習、歴史などを勘案し、そのための人材育成、制度構築など気の遠くなるような作業と時間と忍耐が要求される。
ましてやこの国では法は万人に平等に適用されるものではなく、法とは別の、国家権力をも凌ぐヤミの勢力の存在が取り沙汰されている。法整備支援のむなしさを感じる時もある。法律家としての、また日本の力が試されている、と勇気を奮い起こす毎日だ。

ウ国の法律はソ連時代のものをそのまま引きずっているものが多い。「それだったら、経済の調子のいいロシアに留学するなり、協力してもらって法整備を進めればいいではないか」という意見が出た。これには反感を覚えた、ウズベキスタンがしっかり発展し、自立し、ロシアと対等に交渉できる国になってもらう、そのために我々、JICA関係者はウズベクに来て仕事をしているのではないだろうか。時計を16年前に戻し、弱肉強食のハイパーインフレの経済を、あるいは汚職とワイロのヤミ経済社会を再現させたいのか。
少なくとも国費でウ国に派遣され、援助活動に携わっている人間であれば、国益と本当の援助とは何かの視点を持ち続けることが必要だと思った。